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東京高等裁判所 昭和61年(行ケ)236号 判決

一 請求の原因一ないし三の事実は、当事者間に争いがない。

二 そこで、原告主張の審決取消事由について検討する。

1 成立に争いのない甲第三号証によれば、本件訂正前の明細書の特許請求の範囲には、「建築用板状物の表面に所望の模様を印刷したのち、少くとも該印刷模様部分を総て包含するように接着剤を模様状に塗布し、この接着剤上に粒状物を均一に且つ粒状物間を通して前記印刷模様部分が外部に現出するように撒布、接着させて盛り上げ模様を形成し、必要に応じて上塗々料を塗布することを特徴とする化粧板の製造方法。」と記載されており、その発明の詳細な説明の項には、従来方法の欠点を「従来から建築用板状物の表面に盛り上げ模様を形成して化粧板を得る方法は種々実施されているが、いずれも盛り上げ模様部にわずか一種類の色彩、色調しか付することが出来ず、部分的に色彩の異なる模様が形成されないために変化に乏しく、又、自由なデザインが行えない等の欠点があつた。」(同号証一欄二九~三四行)と指摘し、次いで、本件発明の目的を「本発明はこのような欠点をなくするために、建築用板状物の表面に所望の模様を印刷したのち、適宜の手段によつて接着剤を該印刷模様と重なり且つ該模様と同一或いはそれよりも大なる模様状に塗布し、この接着剤上に粒状物を均一に且つ粒状物間を通して前記印刷模様部分が外部に現出するように撒布、付着させて盛り上げ模様を形成することにより、該盛り上げ模様部分において、希望する任意の部分を所望の色彩、色調により区分することの出来る変化に富んだ美麗な化粧板の製造方法を提供するものである。」(同一欄三五行~二欄八行)と記載して示し、この目的を達成するために採用した前示特許請求の範囲の構成につきより詳細に、例えば、印刷模様については「建築用板状物1の表面に、グラビア印刷、フレキソ印刷その他の印刷方法のうち、希望するデザインに適した適宜の印刷法により所望の色彩を有する柄模様2を印刷し」(同二欄九~一五行)と、粒状物については「印刷模様上に塗布した接着剤に粒状物を散布して付着させるに際して、付着した粒状物と粒状物との間隙より印刷模様が表面に現出して該印刷模様と粒状物とにより希望する色調が得られるように粒状物を選択し、その径を予め調整しておくことが望ましい。」(同三欄二~七行)、「使用することのできる粒状物として、ガラスビーズ、寒水砕石、合成樹脂チツプなどのように誘明或いは半誘明粒状物を接着剤層に均一に散布することにより、印刷模様の色彩が鮮明に現出する。)同三欄八~一一行)と説明し、また、接着剤については、「使用する接着剤を着色し、板状物の表面に模様状に塗布することにより、該着色接着剤とその上に塗布する粒状物とで形成される盛り上り部分に印刷模様部分とは色彩の異なる着色模様を施すことも可能である。」(同三欄三六~四〇行)と記載して、接着剤が単に粒状物を印刷模様部分に接着させるために用いられる場合だけでなく、着色模様を形成する場合もあることを説明し、これらの手段によつて、本件発明によれば、「盛り上げ模様を形成する印刷模様部分と粒状物との色彩や色調を好みに応じたものにすることができると共に印刷模様と接着剤の塗布模様、即ち粒状物の付着模様とを種々変化させることにより、色彩や模様の異なつた各種デザインの化粧板を容易に得ることができ、(中略)従来の盛り上げ模様と異なつた自由なデザインの化粧板を製造することができるものである。」(同三欄二五~三四行)と、その効果を説明していることが認められる。

右記載によれば、訂正前の本件発明は、印刷模様又は着色接着剤による模様が粒状物を通して外部に現出する盛り上げ模様を建築用板状物に形成することをその本質的特徴とする化粧板の製造方法であると認められる。

2 そして、上塗塗料の塗布は、前示特許請求の範囲に「……盛り上げ模様を形成し、必要に応じて上塗々料を塗布する」と記載されているとおり、訂正前の本件発明においては、盛り上げ模様形成後必要に応じ行われる任意の工程であり、使用する上塗塗料の種類や塗布の手段等に何らの限定もないから、前掲甲第三号証により認められる本件訂正前の明細書の発明の詳細な説明の項に記載されている<1>「このようにして製造された化粧板に上塗々料を塗布すれば、ハーフトーン調の色彩が得られ」(同号証三欄一二、一三行)、<2>「その上、上塗々料を使用することによつてパーライトのように外観は化粧材用として好ましくない色をしているが安価な粒状物の使用を可能ならしめ(同三欄一四~一七行)、<3>「さらに上塗々料を施すことによつて印刷模様のズレを解消し、該印刷模様と盛り上げ模様をその模様端部において一致させることができ」(同三欄三一~三四行)る効果を奏するに適した種類の上塗塗料や塗布の手段等を適宜選択した上、「上塗塗料を板状物1全面に均一に塗布」(同二欄二四、二五行)するものであることが認められる。

審決は右<3>の効果の記載を理由として訂正前の本件発明においては不誘明な上塗塗料の使用が前提とされている旨認定するところ、右<3>記載の印刷模様のズレが生ずるのは印刷模様の端部に一致させるべく接着剤を塗布し粒状物を散布した場合であるが、この場合印刷模様の端部を粒状物の盛上げ模様の端部に一致させてズレを隠蔽するためには、不誘明な上塗塗料を用いる必要があることが明らかであるから、審決の右認定はその限りにおいて正当である。しかし、右の場合不誘明な上塗塗料を化粧板の全面に均一に塗布すれば、後記認定の塗装技術の常識に照らし、前記<1>の効果を奏することができず、前叙の訂正前の本件発明の目的に反するから、訂正前の本件発明における不透明な上塗塗料の塗布は、後記認定のように通常の上塗塗装の特殊な応用である本件訂正事項(3)記載の態様その他前叙の発明の目的に反しない態様においてのみ行われると認めるのが相当である。

3 前示当事者間に争いのない請求の原因二の事実(本件訂正の内容)によれば、訂正事項(1)は、本件訂正前の特許請求の範囲の「必要に応じて上塗々料を塗布することを特徴とする」を「次いで不透明な上塗々料を塗布することを特徴とする」と訂正するものであり、本件訂正前は任意の工程であつた上塗塗装を必須の工程とし、かつ用いる上塗塗料を「不透明な」ものに限定したものであることが明らかである。したがつて、訂正事項(1)は形式的には特許請求の範囲の減縮に相当するということができるから、同趣旨の審決の判断は正当である。

ところで、成立に争いのない甲第六号証、甲第八ないし第一八号証によれば、塗料を塗布すること、すなわち塗装の一般的目的は被塗物の外観の美化と保護であり、美化の方法として、透明塗装、半透明塗装、不透明塗装の三種があること、このうち、不透明塗装は被塗物を完全に塗りつぶして塗料の色調として塗面の平滑化を行うものであり、これに使用される不透明塗料は塗膜を有色不透明にするために加えられる成分である顔料を含有していること、不透明塗料を用いる上塗りは、これによつて形成される塗膜により下地を隠蔽し、上塗塗料の色調による塗面をもつて被塗物の外観とすることを目的として行われるものであること、これらのことは本件発明の出願前塗装技術において常識となつていた周知のことがらであつたことが認められる。

そうすると、本件訂正後の特許請求の範囲には、不透明な上塗塗料の種類、塗布の手段、粒状物の形状等について何らの限定もないのであるから、盛り上げ模様形成後の化粧板の全面に不透明な上塗塗料を右塗装技術の常識に従つて塗布し、その結果粒状物間を通して外部に現出していた印刷模様部分を含め、化粧板全面が上塗塗料の塗布によつて形成される不透明な塗膜によつて覆われ、盛り上げ模様が隠蔽される場合もこれに含まれることが明らかであるところ、右の場合は訂正前の本件発明の前叙の目的に反する結果が生じ、その本質的特徴とするところが失われることが明らかである。

もつとも、前示本件訂正の内容(3)(訂正事項(3))によれば、本件訂正後の明細書の発明の詳細な説明には、不透明な上塗塗料を吹付けにより塗装する場合について、「この上塗々料は板状物表面全面に施され、盛り上げ模様部分以外の下地はほぼ完全に塗装される。一方、盛り上げ模様部分においては、粒状物の上面には不透明な塗料が十分に付着するが、粒状物のその他の部分および粒状物の接着されていない印刷模様部分には、粒状物間の複雑な形状をした開口から上塗塗料が拡散状態で付着するため、上塗塗料の付着する部分と付着しない部分とが生じ、薄く塗装された状態となる。」との説明がされており、被告も同趣旨の主張をしている。しかし、前叙塗装技術の常識とされているところに照らせば、右のように上塗塗料の付着する部分と付着しない部分を生じさせることは少くとも通常の不透明塗料を用いる上塗塗料の目的からは逸脱しており、その意味で上塗塗装の特殊な応用であるといわなければならない。したがつて、本件訂正後の特許請求の範囲に記載された上塗塗装が右発明の詳細な説明に記載された上塗塗装を意味し或いはこれに限定されるということはできず、被告の右主張は採用できない。

4 以上のとおりであるから、本件訂正は、訂正前の本件発明においては任意の工程として発明の目的に反しない態様で行われていた不透明な塗料による上塗塗装を、訂正前の本件発明の目的に反する態様を含めて必須の工程に改めたものであるから、実質上特許請求の範囲を変更するものであり、特許法一二六条二項により許されないものといわなければならない。したがつて、本件訂正を特許請求の範囲の実質的変更ではないと認めて原告(請求人)の審判請求を成り立たないとした審決の判断は誤りであるから、審決は違法として取り消しを免れない。

三 よつて、原告の本訴請求は理由があるからこれを認容する。

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